強迫性障害



症状


強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)は、ある行為(強迫行為)や思考(強迫観念)を止められないという症状で、トラウマ(心の傷)が影響して起こる疾患のひとつです。ご本人もおかしい、バカバカしいと思っている場合と、そう思えなくなっている場合があります。
アメリカ精神疾患の診断基準であるDSMーⅣでは、不安障害というカテゴリーの中に入っていましたが、Ⅴでは一つの大項目になりました。

「強迫行為」というのは、手を洗う、確認をする、数を何度も数える、何かをするときに一連の決まった手順を踏まないと次に進めないなどの行動をいいます。

「強迫観念」は、人に危害を加えてしまうんじゃないか、罰が当たるんじゃないかなどという思考が頭をぐるぐるして止まらないというもの。ぐるぐるする内容については前述はほんの代表的な例で、実際は多岐にわたり、それぞれの生活や経験から出てくるようです。
強迫行為には強迫観念が伴っていますが、強迫観念は強迫行為を伴わない場合もあります。

代表的なタイプがいくつかあります。

 

◆不潔に関する恐怖・不安タイプ<不潔恐怖>

  汚れや菌に対しての過剰な心配のため(観念)

  何度も何時間も手洗いや入浴を繰り返したり、

  ドアノブや電車の手すりに触ることが出来ない(行為)

  などがみられる

◆確認しないといられないタイプ<確認強迫>

  家の鍵や冷蔵庫の扉、ガス・電気などの消し忘れへの過剰な心配のため(観念)

  生活に支障が出るほど確認を繰り返してしまう(行為)

◆健康を脅かされる不安タイプ

  自分は病気なんじゃないか?病気になってしまうのではないか?

  という異常な心配のため(観念)

  病院で異常なしと言われても検査を繰り返してしまう(行為)

◆人に危害を加えていないかと心配になるタイプ<加害恐怖>

  車の運転中に今人を轢かなかったかと心配になり(観念)

  バックミラーを何度も見たり確認に戻ったりしてしまう(行為)

  人とすれ違った時に相手にケガをさせなかったか心配になり(観念)

  いちいち振り向き確認してしまう(行為)

◆罰が当たるのではないかと恐怖を抱えるタイプ

  神様を冒涜する考えが浮かんで止められず、

  そのために罰が当たるのではないかという恐怖にも囚われる(観念)

  

解っているのにやめられず、ご本人は疲れきってしまい、非常に辛い毎日を過ごされています。ですが周りからはなかなか理解してもらえないのが現状で、解ってもらえない辛さも加わります。

 

でもこれはご本人が<完璧主義で責任感が強い頑張り屋さん>というお人柄のため、あまり人に頼らない・弱音を吐かない・相談しないといったことから苦労が伝わりにくい、症状も見えにくい、という事情も背景にあります。

 

家族や親しい人が巻き込まれることもあります。例えば、バイ菌が怖くて手洗いが止まらない方は、家族が帰って来ると、「ねぇ、ちゃんと手洗った?」と聞いたり、すぐに洗わないと怒り出したり。はじめはちょっと神経質なのかな?くらいの感じですが、放っておくとじわじわと度を越してきてしまいますので、周りがそれをうっとおしく思ったり、それが元で喧嘩になってしまい、二次障害として人間関係にヒビが入ってしまうこともあります。

 

強迫性障害は“静かな疾患”で、はたから見ているとそんなに疲れることをしているように見えませんが、脳はずーっとぐるぐるとフル稼働しているので膨大なエネルギーを消耗しています。例えて言うと、ずっと止められないランニングマシンに乗って走り続けているような状態です。

 

止めるスイッチを入れるためにはある程度エネルギーが必要なのですが、これ以上走れないくらいくたくたなのでそんなエネルギーを確保できるはずもなく、やめることができないのです。表面上はご本人の意思でやっているように見えてますので、周囲もどうすればいいか困っているというのが現状です。

 

それでもまだ強迫行為は症状が表面にでているので比較的周囲の人に気付いてもらえ、治療にもつながりやすいのですが、強迫観念は頭の中で起きているので発見されにくく放ったらかしになってしまうことが多いです。そして長引けば長引くほど悪化する傾向が強いです。

 


原因


最近の研究では脳の機能に問題が生じているということがわかってきています。脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)がうまく働けておらずバランスを崩してしまっていると言われています。

これは私見ですが、脳が疲れによってうまく動かせなくなっていて、『切り替え』がうまく出来なくなってしまう状態であろうと推測しています。切り替えが出来ないので同じことを繰り返してし、考え方や見方を変えることも困難になっている状態であろうと思います。

強迫性障害の方が訴える不安の内容を見てみると、その疾患に罹ってない方からすれば、そこまで不安に思わなくてもいいのでは?そこまでやらなくてもいいのでは?と思われることばかりです。なのでなかなか理解されにくいのですが、実はそれはある目的のために創り出された不安なので、不自然な内容なのです。

 

その目的というのは『本当の不安を隠すこと』です。深いところに横たわっている不安を見るのが怖すぎるために、隠しておくベールとして創り出しています。

 

それは心の傷(トラウマ)によって抱えた自己無価値感(自分には価値がないという感覚)と無力感(自分にはなんの力も能力もないという感覚)です。私たち人間にとって、このふたつの感覚はものすごく辛いと感じるものです。極端なことを言ってしまうと精神的に参っている人の行動の動機が、“これらをなんとかしようとしているため”ということに行き着きます。それほどのことなので目を逸らせて見ないようにしようとするか、なんとか克服しようととします。

 

強迫性障害はその両方をやっている感じです。心配事をつくってご自分の無力感・無価値感から目を逸らせ、強迫行為を行って心配事を“自分の力で”解決しようとします。一時的には対処できた感覚になり安心感が出るのですが、実際には根本のトラウマは解消されていないのでまた不安に襲われます。そしてまた不安を解消しようと強迫行為を繰り返すということになってしまっているのです。

 

環境からの影響も大きいです。家族関係や学校・職場などの人間関係のストレス、学業や仕事のストレスなどで精神的な疲労がたまっている上に、それをきちんとこなさなければいけないと考えるもともとのお人柄が加わりストレスが大きくなっている場合があります。
他にも切り替えることが困難になる理由として、生まれつきの脳のタイプ(器質的な要素)が考えられます。記憶力の高い方、ご本人やご親族に発達障がい傾向のある方は脳へのインプットが強いため切り替えるのが大変になっている場合があります。

FAPを使った複合的なアプローチ


強迫性障害の治療は2本柱と言われています。薬物療法と認知行動療法(CBT)です。
脳内の神経伝達物質の不具合を整えるのに薬が有効だとされています。そして思考の癖や行動修正のために認知行動療法(暴露反応妨害法を含む)を行っていきます。暴露反応妨害法というのは不安が襲ってきても強迫行為を我慢してその不安に慣れていくというものです。
高い治療効果が得られていると報告されていますが、この暴露反応妨害法に耐える時に大きな苦痛を伴うので、これが辛すぎて治療を断念する人もかなりの数いらっしゃいます。私たちはこの2本柱だけでは足りないだろうと考えています。

まずランニングマシンを止められるだけのエネルギーを確保する必要があるのと、ご家族の協力が大切になりますので、家族療法とFAP療法を使い、以下の手順ですすめます。

 

①トラウマのケアを行う
トラウマケアを行うことで根本の不安が軽減されるようにサポートいたします。

②精神的な疲れ・ストレスの軽減

溜まったストレスによって脳や体が思うように動かなくなり、切り替えがうまくいかなくなります。ここを軽減することで切り替えやすくします。

 

③行動療法を取り入れ生活で実践をします
暴露反応妨害法は①②のケアをしたあとではじめます。実際の行動が伴ってくるので定着率がよく、自信にもつながります。

④家族療法

4つめに入れてしまいましたが、できれば初めからご家族様に治療のご協力をいただければと思います。強迫性障害はご家族を巻き込んでしまうことがあるのと、逆に気付かれずに進行してしまう場合があるのでそばにいるご家族の協力が大切です。

 

⑤環境要因・人間関係
せっかく症状が軽くなっても新たなストレスを抱え込めばまた症状はぶり返します。対人関係がストレスの原因になることが多いので、ご自身のコミュニケーションのクセを知り、リアルな人間関係の中で心地よくいられるよう取り組みます。①のトラウマケアである程度感じ方は変わっています。自分が楽でいられる距離感を身につけていきます。

iカウンセリングが思うこと


 発症のきっかけはちょっとしたことだったりします。例えば、鳩の糞を踏んでしまって嫌な思いをしたとか、テレビで菌の話をしていたとか…。そういう経験をした方が過去に親などから「鳩の糞ってすごいバイ菌だらけで危ないんだって~」という話を聞いてしまっていると、情報が重なって過剰に怖がる様になります。そこに脳や体の疲れによってうまく切り替えが出来なくなり症状につながります。

 

トラウマが潜在意識に残っていることで、症状が次々と移っていってしまうという現象を起こします。(確認強迫の回数は減ったけど強迫観念に囚われている時間が多くなってしまうなど)その結果、色々な症状をぐるぐる回るだけで根本的によくなった感じがしない、という事態に陥り、頑張っても一向によくならない症状と治療に不信感と絶望感が生まれ、更に傷を深めていってしまいかねません。そうして“もうどうせ治らない”と更に心を閉ざし、諦めてしまった方もいらしたと思います。本当にしんどいと思います。

 

しかしこの疾患は、過去に心の奥に仕舞いこんだ悲しい気持ちや怒りたかった気持ちを教えてくれているのです。そしてそれを出してもらえるのを待っています。その症状の強さは今ここに至るまでにどれほどご本人が辛抱強く溜め込んで来られたのか…その顕われでもあるかのようです。

 

強迫性障害の治療は時間がかかりますし、何よりご本人の“治りたいと願う心”が必要不可欠になります。ご本人がそこを目指す限り、カウンセラーも決して諦めず、寄り添い、サポートして参ります。